ニュースの論点No.852 リベンジ退職を回避する方法

「なぜ復讐のために退職? 2025年のトレンド「リベンジ退職」 会社はどう対策をとるべき?」2025514日、YahooJAPANニュースはこう題した記事を掲載しました。

 

繁忙期直前の辞職やSNSでの内部暴露といった「リベンジ退職」が現実の経営損失として表面化しています。

 

若手を中心に合わなければ辞めるという選択肢が当たり前になった一方、辞める側が「去り際にリベンジする」行動へ傾く背景には、学歴や入社年度で処遇が分かれる不公平感、上司の感情的指導、意味の薄い残業など日常的なストレスの積み重ねがあります。

 

心理学者セリグマンが提唱した学習性無力感は、努力しても報われない体験が続くと行動意欲が失われる現象ですが、同じ過程で人は視野を狭め、「自分は被害者だ」という物語を強めます。この段階で上司の何気ないけど心無いひと言が発せられれば最後のひと押しになり、退職は報復へと形を変えます。

 

歯止めをかける鍵は心理的安全性です。Googleが行った「プロジェクト・アリストテレス」は、高業績チームの最重要要素は心理的安全性であると結論づけました。

 

ハーバード大のエドモンドソン教授も、無知や無能と思われる不安を抱えたままでは意見が出ず、学習が止まると警告しています。つまり、報復的離職を防ぐ最初のステップは「声を上げても大丈夫だ」と感じられる場づくりです。

 

その起点は驚くほど小さな行動にあります。朝、名前を呼んで笑顔で挨拶し、前日の努力に一言労いを添える――たった数秒の承認でも脳内ではオキシトシンが分泌され、ストレスホルモンのコルチゾールが抑制されることが脳科学で示されています。

 

こうしたマイクロフィードバックを上司が毎日欠かさず続けると、半年ほどで雑談や相談が復活し始め、二年ほどで文化として定着します。

 

「忙しくて無理」という声を封じるには、経営者自身が率先して回数を数値化することが有効です。朝の声掛けを本人が自ら記録し、開示するだけで行動は持続します。数字に置き換えられた行動はマネジメントの対象になるからです。

 

実際に退職が起きた場合のコストは小さくありません。国内の試算では、早期離職一件あたりの損失は新卒で約657万円、中途で774万円に及びます。紹介手数料や教育投資に加え、残された社員の残業増、顧客対応の遅延といった見えにくい損失も重なります。悪評が口コミで拡散すれば採用難に拍車が掛かり、再生にはさらに時間がかかります。

 

「辞めるなら静かに辞めてほしい」と祈るより、最後のひと言で信頼を積み上げる習慣を今日から始める方が、はるかに安上がりで確実です。日常の声掛けが定着すれば、彼らの怒りは報復ではなく改善提案として表面化します。

 

リベンジ退職は、人をコストではなく感情を持つ存在として扱えているかを企業に問い直しています。数百万円単位の損失を避ける最短の投資は、大仰な制度ではなく、一日数秒の「あなたを見ています」というメッセージの連続です。

 

経営者がその価値を腹落ちさせた瞬間から、組織は静かな退職どころか、静かな信頼の構築を始めることができます。

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