ニュースの論点No.926 仕組み化から属人化へ

「学習塾倒産、過去最多55件 小規模塾が次々と消える理由」2026123日、Yahoo!JAPANニュースはこう題した記事を掲載しました。

 

ニュースでは、2025年の学習塾倒産が過去最多の55件を記録したことを伝えています。その9割以上を負債1億円未満の小規模事業者が占めているという事実は、あらゆる中小企業経営者にとって対岸の火事ではありません。

 

表向きの倒産原因は「販売不振」とされていますが、その奥には、デジタル化と大手の寡占が進む現代において、「中途半端な機能」しか持たない事業者は淘汰されるという残酷な現実があります。

 

私自身、昨年ある小規模塾の経営支援の現場に立ちましたが、そこで目の当たりにしたのは想像以上に厳しい「向かい風」でした。少子化による生徒減はもちろん、地域の学校統合による商圏の崩壊、そして資本力のある大手塾への顧客流出。

 

さらには、安価で優秀な学習アプリや動画サービスの台頭に翻弄され、既存の勝ちパターンが通用しなくなっていたのです。

 

かつて学習塾の商品価値は「わかりやすい授業」でした。しかし今、単に知識を伝達するだけなら、YouTube上のトップ講師の解説動画やAIの方が、はるかに分かりやすく、効率的です。「授業だけ」では、もはや特色にはなりません。

 

小規模な塾が、仕組み化された大手のカリキュラムやデジタルの利便性を後追いで真似しても、資本力と効率の壁に跳ね返されるだけです。

 

では、どう生き残るか。経営の世界では長らく、「属人化の排除」と「仕組み化」が正解とされてきました。誰がやっても80点の成果が出せるマニュアル作りこそが、事業拡大の要だと教わってきました。しかし、今の小規模事業者が生き残る道は、その真逆、すなわち「徹底的な属人化」にあります。

 

動画は完璧な授業をしてくれますが、生徒の表情を見て「今日は元気がないな」と声をかけることはできません。宿題をサボった生徒と本気で向き合い、モチベーションを管理し、伴走する。この「人間臭い泥臭さ」こそが、デジタルには模倣できない最大の付加価値です。

 

これまでは、特定の人に依存しない経営が良いとされてきましたが、これからは「その人でなければならない理由」を作ることこそが、最強の差別化要因になります。

 

もちろん、属人化への回帰には大きな副作用があります。

 

個人の力量に依存するため、かつてのような急速な規模拡大は難しくなります。経営者やエース社員が病に倒れれば事業が止まるリスクもあり、マニュアル化できない「暗黙知」の塊であるため、将来的な事業承継のハードルも極めて高くなります。安定や成長を是とする経営セオリーからすれば、これらは明らかに「悪手」です。

 

しかし、大手と同じ土俵で戦い、特色を出せずに静かに消えていくリスクと、あえて茨の道である属人化を進めるリスク。小規模事業者がどちらを取るべきかは明白です。将来の拡大や承継を憂うよりも、まずは「現在の生存」を確保しなければなりません。

 

これは塾に限った話ではありません。建設業であれ飲食業であれ、どれほど精巧なツールがあっても、顧客は最終的に「親身になってくれる店主」や「痒い所に手が届く担当者」を選びます。

 

大手チェーンが効率化のために切り捨てた「手間」や「人間関係」を拾い上げ、そこに魂を込めること。仕組みで楽をするのではなく、あえて汗をかき、個の力を前面に出して顧客との間に「代替不可能な絆」を結ぶ。それこそが、縮小市場を生き抜く中小企業の唯一の生存戦略なのです。

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